「書の至宝(日本と中国)展」はぜひ御覧なさいと聞かされ、しかし混雑は大変なもので入るのに40分かかったとのことなので諦めかかっていたが、開場間際に行けば入れるのは入れるだろうと、思い切って早起きをして出かけていった。それは当っていたが、入るともう人はいっぱいだった。
流れに入っては少しも進まないので、隙間を見つけてはもぐりこみ、要所要所をじっくり目に入れるしか方法はないのだが、それでも十分に満足した。何しろ中国を源とする漢字の、紀元前の甲骨文から始まる書の歴史が、文字通り宝物である実物によって辿られているからである。王羲之から始まる中国の書、それが日本に渡ってきて経文や仮名文字として発展していくさまが、次々に展開する。
書の美しさなどよく分らなかったのだが、これら昔の人の名筆を眺めていくうちに、それが次第に感じられるようになってくる。描かれた紙や巻物などの姿もそのままに眼前に出来る、その迫力もあるのだろう。墨色の線だけで描かれているのに、そこには色彩のある絵よりももっと美しいものが感じられるのはなぜだろう。
中国の力強い漢字も素晴らしいが、日本の仮名のたおやかさも素敵だ。昔のお坊様が膨大なお経を一字一字活字よりも細く美しく紺地の紙に金泥の筆で書いた努力も感嘆する。日本の歴史で習った三蹟とか三筆という書の名人の筆跡も見ることが出来、一本しか現存しない、豪華な「古今和歌集」も見ることが出来た。
私が見たかったものがある。良寛の書である。それは時代的にも最後にあった。
4面の大屏風2枚(数え方が間違っているかも)。漱石も欲しがっていたという良寛の書は、とても人気があるようだが、字は細いが伸びやかでおおらか、風になびいているような風情があり、それを眺めているだけで心が安らいでくる。幸いそこが直ぐ出口になるので初めはほとんど人がいなかった。ゆっくりとその吹いてくる風に当ることが出来たのであった。その反対側には、良寛と通じるところのある、悠々自適と自己の自由の尊重を唱え、脱俗の書風を作り上げたという中国の漢詩人の、同じ大きさの屏風が展示されていた。そちらもなかながすがすがしい書であったが、こちらは漢字ばかりということもあるが個をはっきりと前面に出した力強さがあった。どちらも自作の詩を書いたものであり、好対照で、この書展の締めくくりとしてよく考えられたものだなあーと、勝手に考えて頷いたのであった。
12時少し前に、会場を出ると、4列の長い行列が出来ていて、入るのに一時間かかりますと案内の人が叫んでいた。
それから読書会に行ったのだが、それはまた後日にします。
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