何年か前から月一回、朝日カルチャーの「漱石を読みなおす」を受講している。講師は小森陽一氏。
誘われて行ったのだが、面白くなってずるずると今に続いている。博覧強記で、氏の頭脳の襞には政治から文学に至るまでの年表がびっしりと書き込まれている感じで、それを縦横に使っての独自な展開、文学の枠にとどまらない新しい視点からの読み解きは、いつも眼から鱗の思いをさせられる。それが面白く、また刺激的でもあるのでついつい跡をひいてしまっている。
漱石は明治元年の前年、慶応3年に生まれた。またロンドンに留学したのは1900年、ちょうど20世紀が始まろうとしていた年である。日本はもちろんだが、世界(といってもいわゆるヨーロッパだが)も大きな転換期を迎えていた。近代化の途ではまだほやほやの赤ん坊の日本から、没落期とはいえ産業革命の中心地、大英帝国のど真ん中に、国家の使命を帯びて投げ込まれた漱石が、どんなに大きなカルチャーショックを受けたかと考えると、神経衰弱になるのも無理はない。深く感じ、深く考える人であるからなおさらである。
だがその落差が大きいだけに、そして漱石がすぐれた感性と知性を持っていただけに、近代化の過程と行く末を、その時点ですでに見通していたことが、小説を読んでいくうちに分ってきた。やはり漱石は偉大な文学者である。文豪といっていい人だろう。(もちろんこれは私の独自の見解ではないのだけれど)。
というのもその時代に漱石が感じ、考え、憂慮した事柄が決して古びていない、というより今こそそれが展開している、ということが分るからである。漱石が感じていた不安や危惧、それがいま具体的に姿を現してきたような気さえする。その時から100年が経って21世紀を迎えた。今年は戦後60年ということでその推移や変貌の検証を、マスコミはしばしば取り上げている。これは私が生きてきた時代と、ほぼ重なる。自分の生きてきた道のりと同時に、生まれ育った国についてもやはり考えてしまう。
こういうことを書くつもりではなかったのに、ついこうなってしまった。それでこれを「はじめに」ということにし、次に書こうと思っていたことを書くことにします。
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