物語山 塩田禎子
ひたすらに続く上りのの道に
からからと瓦のような石が鳴る
砂岩で埋めつくされた山
前を行く人と後ろからくる人との
足元が奏でる響きのなかに
むかしの悲しい物語が聞こえる
豊臣氏の小田原城攻めの時
前田軍に滅ぼされたこの地
落ち武者たちは山に逃げ込み
岩に登り
蔦を切り落とし切り落とし
つぎつぎにいのちを絶ったという
長い林道を歩いて
上りの道に差しかかつたとき
見上げる頂の少しそれたところに
四角い形の岩が白くそびえるのを見た
この土地の人の言う「メンバ岩」の
なまえの響きと重なって
胸に刻み込まれた物語
剥がれ落ちて
薄い一枚になった石のかけらを
手のひらに乗せ
指で軽くはじいてみる
メンバ岩への道はいまも途切れたまま
かすかな石の音がする
注 物語山…群馬県下仁田町。
メンバ…メンベともいいまないたのこと。
※
懐かしい感じがする。
それがこの詩全体から受けた私の印象です。
素直で率直な感じがすると言っていいと思います。
この詩人にとって山に登ることと、その山について詩を書くことはおなじようなことではないかという感じがします。
山に登るのは体にも心にも良いことであろうと思います。
そしてこの詩人にとって詩を書くことは全くそれと同じようなことではないかと感じます。
それがこの詩が自然であるとか素直でとかというふうに感じられた元ではないかと思います。
私も詩を書き始めたばかりの頃はこんなふうに詩を書いてきました。でも、いつのまにかここから離れてしまったような気がしてなりません。
実はそのことに気がついて、時々この場所に戻ろうとすることもあります。でも、なかなかうまくいきません。
それは書いている詩の内容やテーマが深く複雑になったからということだけではないと思っています。
この場所を離れては詩は存在しないのだと思います。この詩の内容はある意味ではたわいものないものかも知れませんが、それにもかかわらず、私には響いてくるものが
あります。
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