夜明けのサヨナラ 池谷敦子
どうしても こころは海に向かってしまう
どうしてか 岸辺に向かってしまう
ふわりとからだを放り投げて
草の底から
水面の下から
見上げてみたいのだ
出会ってしまったひとだから だいじにしてきた
背負ってしまった重荷だから だいじにしてきた
そう? 自分をだいじにしてきたんじゃなかったの?
ぜんぶ受け容れてくれたのが あなた
今は薄い骨だけになっている あなたなのだ
酸素マスクをずらしてあげると
サ・ヨ・ナ・ラ と
僅かな口の動きだけで伝えた
サヨナラ
しあわせな魚族だった頃の
水の感触が
もう まもなく
あなたを くるむ
※
この詩について、はじめに思うことは、この詩を高齢者だけではなく、多くの若い人たちに読んでもらいたいということです。
このような詩を書くことは、年をとり、それなりの人生を送ってからではないと、できないと思います。
しかし、これを読み、味わうことは別です。
若い人も必ず、この詩がよくわかると思います。よい詩には必ずそういった年齢を超える
力があります。
私がこの詩を読んで感じたことは、人というのは、何とやさしく、何と無邪気なものかということですが、それよりも言葉にならない、不思議さ、不思議であるが故に何とも素敵な感じです。この不思議さは、この詩を読んで私は初めて体験しました。いや、もしかしたら、私の中にあったかも知れない。それをこの詩が想記させてくれたというべきなのです。
この人の不思議な素敵さは、きっと誰の中にもあるのだと思います。それに、いつか出会う、それは一度限りの出会いかも知れません。
できたら、この詩を何度か、くり返して読んで下さい。そして、最終連に続けて、第一連、第二連と続けて読んでみて下さい。そうすると、私が書いた「不思議な素敵さ」がよくわかるのではないかと思います。詩はぐるぐると回る輪舞のようなところがあります。
-
最近の投稿
カテゴリー
最近のコメント
- 北川朱美「電話ボックスに降る雨」アリスの電話ボックス に かのうかずみ より
- 北川朱美「電話ボックスに降る雨」アリスの電話ボックス に かのうかずみ より
- 池谷敦子「夜明けのサヨナラ」一回限り に ゴチマロ より
- ヘルムート・ラック に 横井琢哉 より
- 西脇順三郎「太陽」びっくりするほど好きな詩 に hide より
アーカイブ
- 2016年4月
- 2015年11月
- 2015年5月
- 2014年10月
- 2014年4月
- 2013年10月
- 2013年4月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年5月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2008年9月
- 2008年6月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年2月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2005年12月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年1月