星になる 島田陽子
吸われるように見ている
梅雨の暮れ方の空
木がつくと
バスは灰色の雲の渦に巻き込まれ
無音の世界を
螺旋状にゆるやかに廻りながら
高みへ高みへとのぼっていく
なつかしいこの感覚
海のように重いものをすっぽり脱いで
たましいがのぼっていく日を
そういえば
母はどこまていったのだろう
白い割烹着姿の
少し猫背の小さな母は
いまも わたしといっしょにいる
(わたしの背が近頃丸くなってきたのはそのせいだ)
鬱屈の石を胸に沈め
テレビを見ていても眉を開かなかった母の顔が
わたしの表情に重なることがある
こちらでの痕跡はまだ消えてはいないが
夢にも会いにこないのは
すでに子どものたちのことを忘れて
透明な微塵となって漂っているにちがいない
それは宇宙のどのあたりか
いつか
わたしたちは互いの見分けもつかず
無数の塵とつとして星雲を形づくり
引き合い 熱くなり 高速回転し
遂に 新しい星になるだろう
何千万年もかかって
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