黒い空 青山みゆき
どろどろと黒い空が鳴っている
わたしは通いなれた道を自転車で突っ走る
空は途方にくれて
泣きながらわたしの頚すじをなめる
見なれない雲の上では
深海魚たちが
くちびるを尖らせて順番を待っている
疾走する雨に濡れた電柱に
あなたではない
あなたでもないなたを
縛り付ければ
わたしのなかでとけてくれますか
わたしの寂しさをはがしてくれますか
耳を思いっきり噛んで
血が流れるくらいのことをしてくれますか
頭をかかえこんだ空と
わたし
もうこれで
他人ではありません
どろどろと黒い空が鳴り
深海魚たちが歯を立てて降ってきた
あれから
わたしたち
ずっと家にたどり着けない
※
「どろどろと黒い空が鳴っている」
この初めの一行を読んだとき、私は私のいちばん深いところで何かが動いたような気ガシマシタ。そして、更にこの詩を読んでいくうちに、これはとてつもないアナーキーな世界であると思いました。
外の世界と私の内部の世界が殆ど地続きのようで、外の世界と思っていた物が、実は私の内部で
あったりして、呼吸するのも難しい感じさえします。
そもそもアナーキーとは時代や社会のものであり、決して一人の人間のなかにあるものではないと
思います。この詩にはアナーキーとしかいえない深い闇があるような気がします。
それが現代という時代を写したものなのか、それとも一人の人間の闇から生まれたものなのか、
私にはよくわかりません。しかし、ただ時代の風潮であるとするならばね私は決してこれ程、この詩に魅かれることはなかったでしょう。