蕗の風景 草野理恵子
私の心の中に蕗の葉の生い茂るひとつの風景がある
汽車の煙がかかり薄汚れた大きな蕗の葉は
恐怖のようにどこまでもむ続いている
葉の上に白く蠢くものをみつける
助けを求めるに似た両腕の動きに君の声が重なる
夜ごと犬のように扱われ口に綿を詰められる
捨てられた空き箱や発砲スチロールの闇
錆の多い街は降る雨さえ鉄が混じる
赤く細かに鋭い粒が手のひらを傷つける
その声は君だったのだろうか
誰とでも繋がれる水路が蕗の下にはあり
ふと夢と夢をつなぐはいの話を思い出し水流を逆に泳いでみる
天井に蕗が青黒い
毎日ひとつその風景の中にもものをすてに行く
蕗の葉の上に根元に 生い茂る暗闇に
※
過酷な生の姿が一枚の風景画のように、きちんと描かれています。普通だと、こういった内容、テーマの詩はなかなかすすんで読む気にはならないのだけれども、この詩破損な私を惹きつけてやまない静かな力があります。
「私の心の中に蕗の葉の生い茂るひとつの風景がある」
この言葉は作者の告白であり、同時に「私」への伝言であるとおもいます。この一行によって、この詩のすべてが決まったといっても良いと思います。私には人生という一枚の風景画を描いている一人の人間の姿が浮かんで来ます。その動作は決して大げさではなく、私を怖がらせる物でもありません。自分自身と読者に納得させると願っているようです。絵を描く絵筆のように詩人は言葉を選んでいます。そして私の前には過酷であるが、美しい絵が見えます。