天秤ばかり(三) 大石ともみ
私は物の重さを量るよろこびは
その沈黙を聴くこと と
洋菓子店の閨房で
小さな天秤ばかりは
また語りはじめた
一グラムの分銅に見合う粉砂糖
二つの皿が 揺れ定まると
粉砂糖には
沈黙が降りてくる
沈黙に 在って
静寂に 無いもの
万華鏡の軽やかさで
沈黙は 澄んだ一音で
透明な旋律をかすかに響かせる
物の重さを量るよろこびは
沈黙の旋律が
祈りの音色に聞こえると と
一グラムの粉砂糖を量り終えた
古典的な道具は
哲学者の眼差しでこう語った
※
私が面白詩と考える詩のなかには時に「おいしい詩」としか言いようのないものがあります。
この詩はその代表的なものです。
この詩ができるまでは多くのの年月や時間か体積しているような感じがします。
でも、この詩はとてもみずみずしく、小さな子供や木の芽のように柔らかです。これらの言葉がどこから来て、どこへ向かっていくのか、私には分かりませんが、この詩を読む私を甘く包んでいることは
確かです。
宇宙はどこにあるのかわかりません。このお菓子屋さんもどこにあるのかわかりません。
でも、必ずあるような気がします。それはこれらの言葉が喜びながら歌っているからです。
永い時間生きてきたからこそ、伝わるものがあります。それはたとえば私の好きなシュベルヴェーイルの詩に「馬はふりむいて 誰も見ないものを見た」というのがあります。
私はこの「天秤」に同じようなものを感じます。
それは私たちの間近にありながなら決して見たり、触れたりすることがめったにない極上のお菓子のようなものなのでしょう。
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