臺洋子「静寂しじま」小さくて大きな世界

静寂しじま     臺洋子
闇の中で あなたの声を聞いた
触れることもなく 声だけで距離をはかり
あなたの顔を知らないまま 会話する
あなたの思い出や わたしの思い出
わたしたちの声だけが
行ったり来たり 浮遊している
かたちのない時が
はじまりのどこかにあって
それでも声は
魂のようにゆらゆらと響き合う
そんな場所で
いつか話していたような気がして
  
                     ※
 音楽にたとえるなら、この詩は小夜曲(セレナーデ)であると思います。
 圧倒的な感動というわけではありませんが、心の隅に息づいていてなかなか忘れられない感じがします。
 私がこの詩を好きなのは、言葉の流れ、リズムがとても自然で気持ちがいいということです。
 読んでみるうちに、いつのまにか、私は声を出して読んでいるような気持ちにさえなります。
 音楽というとね私はどんな好きな音楽であってもその全部を覚えていることはできない、でもそのうちのどこかしらの旋律が必ず心に残りまする
 さて、この詩でも全部覚えていることはないと思いますが
「かたちのない時が
 はじまりのどこかにあって
 それでも声は
 魂のようにゆらゆらと響きあう」
 この部分は決して忘れないでしょう。
 静寂(しじま)というタイトルについて本来、「夜の静寂(しじま)」とか「森の中の静寂(しじま)」とかというように、環境についていわれるものだと思いますがこの詩の場合、心が宇宙と融け合うような感じがしてタイトルとしては大変成功していると思います。

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