寺本まち子「仮想十二支行列」  化学反応

仮想十二支行列   寺本まち子
来客用のベッドは鳥の巣の形にする
男は左 女は右
ワタシは 私とあなたに分かたれた片割れ
ふたりはそれぞれの影
タツ年の妹は「鸚鵡(おうむ=ルビ)を殺した男を愛してしまつた」と
白蟻のようにすすり泣く
庭でジョンが尻尾を三度振る
ニンゲンとイヌの関係は寒い地質時代に成立したらしい
サルは16時に柿を食う サルはネズミを畏れる
さつまいもに水分が充実する24時 畑でネズミが動く
蚯蚓(みみず=ルビ)は22時に茗荷の根元で交尾する
この年 冷夏に濡れた野菜を食べて
ウサギは流産した
夕暮れ時 鳥目のトリはウサギの光った眼をつつく
そのトリは20時 野犬に襲われる
ウシは正午に草を食べる 牛になるまで
龍は春分に天に昇り 秋分に淵に潜む
ウマ年の秋は 枯葉がざわめく
トラの指の数は奇数ヒツジは偶数 ヒツジは紙が嫌い
トラ年は山雪が多い
日本の北の方の積雪量がニュースとなった
イノシシ年の暮れは雨が多く イノシシは腹をこわす
アオダイショウは丸呑みにした卵の殻を消化するため
高い処から何度も自ら落下する
このヘビは何故サルを食べないのだろう
幽霊は呼ばれたときだけ現れる
死者にも時間はあるだろうか
東方の夜空には青みを帯びた木星(ジュピター=ルビ)
森へ向かう道で病める象とすれ違った
すべての不運には根がある
位置があって 循環がある
一億五千キロ離れた距離から
六千度のコロナを放ちつづける太陽が
今日も 東から昇り
西へ沈む
     ※
 確か、小学生の五、六年の頃だと思うけれども理科の時間で、酸素はいろいろなものにくっついて、その結果、様々な新しいものが生まれるということを勉強した。
 たとえば、水素とくっついて、水が生まれたり、鉄とくっついて錆が生まれる。そういうことが面白かった。
 ところで言葉についても、同じようなことがいえるのではないかと思う。言葉は「私」とくっついて名前になったり、数字とくっついて時間や運命になったりする。そうした中から詩が生まれたりする。
 この詩はそうした中のひとつではないかと思います。私にとって、この詩が面白いのは、言葉の持っている酸素のような性質をわからせてくれるからです。でも、こういったからといって、特別こみいったことをいっているわけではなく、小さな子どもでさえも、たとえば「かぞえうた」などをとおして、よくわかっているのだと思います。
 ここでは十二支とくっついて動物の世界や幽霊や死者、そして宇宙を自由に飛びまわっています。

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