鮎川信夫「あなたの死を越えて」 少しだけ好きな詩

あなたの死を越えて
      一九五〇年一月三日   鮎川信夫
ひとつの年が終り
ひとつの年が始まる神秘な夜にくるまって
わたしの魂は病んでいる
落ちた夕日の赤い血が
わたしの胸のなかで腐っている
落ちてゆくわたしの身体を支えてくれるのは
淋しい飛行の夢だけだ
二十年もむかしに死んで
いまでも空中をさまよっている姉さん!
誰も見てはいないから
そして闇はあくまで深いから
死者の国の
いちばん美しい使いである姉さん!
わたしとあなたを距てるこの世のどんな約束も
みんな捨ててしまうのですか
大きすぎる白い屍衣を脱ぎ
そっとわたしの寝室に近より
あなたはかすかにしめった灰の匂いを覆いかける
「もし身体にも魂にも属さない起きてがあるなら
わたしたちの交わりには
魂も身体も不用です」
あなたのほそい指が
思い乱れたわたしの頭髪にさし込まれ
わたしはこの世ならぬ冷たい喜びに慄えている
誰も見てはいけないから
そして闇はあくまで深いから
姉さん!
一切の望みをすててどこまでも一緒にゆこう
わたしの手から鉛筆をとりあげるように
あなたは悪戯な瞳と微笑で逃げていけばよい
わたしは昔の少年をなってどこまでも追いかけてゆくだろう
愛していても愛しきれるものではないし
死んでも死にきれるわけではないのだから
姉さん!
あなたとわたしは
始めも終わりもない夢のなかを駈けめぐる
二つの亡霊になってしまおう
Beyond your Death   Ayukawa Nobuo
January 3, 1950 trancelated Takao Lento
Robed in mysterious night when
one year ends and another begins
my soul is ailing
the red blood of the sinking sun
decays inside my bosom
only a dream of lonely flight
props up my falling body
Sister! You still roam in thin air
having died 20 years ago already
Because the darkness is really deep,
Sister,the most beautiful messenger
from the domain of the dead.
are you going to abandon all
the rures of the world that separate you and me?
You shed your loose white shroud
gently come toward my bedroom
and cover me with the scent of slightly moist ashes
“If there are tenets that belong to neither body nor soul
our intimacy
needs no body or soul”
You slender fingers
slide into the hair on my head.Confused and agirated
I tremble with a chilling joy that is not of this world
Because no one is looking
and because the darkness is so deep
Sister!
let us go to the furthest end,shedding all hopes
You can run away with your mischievous looks and smiles
likes you did when you yanked a pencil from my hand
I,the youth of my past once more, will chase you to the farthest end
Because love cannot be exhausted
because death cannot be complete
Sister!
you and I,
we shall be two ghosts
scampering in a dream that has no beginning or end
とても難しい詩であるし、好みの詩であるわけではないけれど、だから全部がすきだというわけではないけれど、ただ「愛していても愛しきれるものではないし」というところがただごとではないと思わせた。愛とはあいしていても愛しきれるものではないところもあるのだとわかっただけても、この詩を読んだかいがあったと思った。

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