村野美優「住処」 小さな穴の発見

住処   村野美優
壁や石垣のあいだに
ぽつんぽつんと空けられた
水をだすための小さな穴
プラスチックや煉瓦でできた
それら小さなトンネルのなかを
覗いて歩くと
小石や砂や枯葉が
うっすらと溜まっていたり
菓子の袋や吸殻が
押し込まれていたり
倒れた植木鉢のように
カタバミやハコベがあふれ出ていたりする
今日
知らない家の石垣に
素敵な穴をひとつ見つけた
なかにエメラルド色の苔が生え
その上に無数の泡がきらめいていた
そのきらめきを胸にしまうと
カニのように
わたしも自分の住処に戻った
   ※
 愛であろうと、詩の方法であろうと、「小さな穴」であろうと、その人が発見したの
なら、その大事さは変わりない。
 私はこの詩を読んで、そのことがよくわかりました。それと同時にこの詩がとても好きになりました。
 子どもの頃、何度かこれと同じようなことを経験したのを覚えています。その時のなんともいえない満足感もまだほのかにではありますが覚えています。
 これは発見ということだろうと思います。発見というのは、愛であろうと詩の方法で
あろうと、相対性原理であろうと、発見というのは自分を発見することだと思います。
 この詩が私にそれを教えてくれました。
 すべての発見はこの詩のように「小さな穴」の発見と同じものではないかと思います。なぜなら、自分を発見し、自分と出会うことは最大の幸せだからです。私は発見とは幸せであるということに気がつきました。
 ランボーのヴォワイアン(見者)について、時々私なりに考えますが、幸せになる一つの方法といってもいいんじゃないかと思います。穴を見つけたときに、自分は生きていると思ったに違いない。しかもそれがなんと偶然に起きた、それが私はとても好きです。

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