ベルギーの友の思出 鈴木信太郎訳
幾時もまた幾時も、風に揺めくこともなく、
殆ど香の色に似た 古めかしさが 悉く、
石洞の家が一襞一襞と衣を脱いでゆく
忍びやかだが眼に見える 古めかしさを
宛らに(さながらに)、漂ふ、そのさま、新しく惶(あわただ)しくも
契られた私たちの友情の上に 昔の香油として、
(私たち、満足し合ってゐる太古悠久の民の幾人)
時間の寂(さび)を注ぐのでなくては何の詮もなかろう。
永久に凡庸でないブリュージュの町、白鳥が點々と
游いでゐる 死の澱む運河に 黎明を積み重ねる
この市(まち)で、邂逅した おお 懐かしい人々よ、
白鳥の鼓翼(はばたき)のやうに、白鳥ならぬ他の飛翔が
忽然と精神の火花を散らしてゐることを示す これらの
子らの誰かを、厳粛に市(まち)が私に知らせた時に。
※
昔、マラルメは嫌いだった、それなのに「詩は話しことばのようでも、書きことばのようでも、歌のようでもあり、しかも石の刻まれたことばのようでもあるのだ」と誰かにいわれたとたん、どうしてもマラルメが読みたくなり、読んでも、私の知っている詩
は見つからずはなはだ困った。でも、まあこの詩はわりあい好きだつた。
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