「タブラ・ラサ」――アルヴォ・ペルトの音楽に

タブラ・ラサ     ――アルヴォ・ペルトの音楽に
わたしたちは半分砂に埋もれた住居に住んでいた
毎朝わたしたちは水を求めて砂を掘ったり
わずかばかりの野菜をつんで食したりしていた
毎朝わたしたちは散歩に出かけるのだった
どこへいっても崖や砂が襲いかかり
路を歩く度に少しずつ少しずつ停止しなければならなかった
わたしたちは数百年もの間ひとりの人に会いたいと思っていた
誰もその人を見た者は居なかった しかし
その人がどんな人であるかわかっていた
そして 毎日 その人に会うのだった
今日も路が途切れたところで皆の息が苦しくなった
路はもうなかった しかし 空が割れて
光りがふりそそぎ その一つの穴から地響きがして
よろよろとひとりの人が現れた
ああ と皆が叫んだ
地響きが続き 海も街も森もなくなりつつあった
もともと何があったかわからない
一つの穴からほのかな光りにつつまれた人が出てこようとしていた
しかし 誰であるかわからなかった
神という人も
弥勒菩薩という人もいた
おかあさんという人も
パパという人も
娘という人も
未来のともだちという人もいたが
誰も明確にいうことができなかった
ああ 皆がいうと胸が熱くなった
まるで原爆のような光りのなかで
一瞬 会いたい人に会ったのだ
それから 永遠にちかい静寂がやってきた
光りは消え 崩れかけた崖と
砂だらけの路があった
そうして皆は今日一日を過ごすのだった

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