朝の少年 伊藤悠子 (世界を新しくするための詩1)
「暑いなあ」と大きな声で言いながら、少年が後ろから近づいてきた
「暑いねえ」と私
「寒いなあ」と追い越してから言った
「木陰にはいるとね」
「誰もいないなあ」
坂の横のバスの発着所を見おろして言っている
十四歳ぐらいだろうか
「バスだけね、運転手さんは休んでいるのね」
私はその少年に言うと同時に
私が手を引いている小さな子にも言うように言った
少年は階段を降り左の方に曲がるとき
こちらを向き大きく手を振った
私も片手を高く上げて返した
交差点を少年がひとり渡っていく
眞白い半袖シャツを着て
小説が始まる朝のようだ
渡り終えると
交差点の方に歩いていく私たちのために
歩行者用ボタンを押してくれた
こちらを見ながらひとつうなづいた
押しておくよ
ありがとう
少年は左の方へ
私たちは右の方へ
一本道を遠ざかっていったが
幾度も振り返り合図のように手を振った
そして少年は道を曲がったのだろう
誰もいないなあ
-
最近の投稿
カテゴリー
最近のコメント
- 北川朱美「電話ボックスに降る雨」アリスの電話ボックス に かのうかずみ より
- 北川朱美「電話ボックスに降る雨」アリスの電話ボックス に かのうかずみ より
- 池谷敦子「夜明けのサヨナラ」一回限り に ゴチマロ より
- ヘルムート・ラック に 横井琢哉 より
- 西脇順三郎「太陽」びっくりするほど好きな詩 に hide より
アーカイブ
- 2016年4月
- 2015年11月
- 2015年5月
- 2014年10月
- 2014年4月
- 2013年10月
- 2013年4月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年5月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2008年9月
- 2008年6月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年2月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2005年12月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年1月