Paradise 中本道代
遠くで雨がふっている
遠いところ
バルドよりも遠いところ
ブロギイナよりも遠いところ
晴れやかに
透明のしずくが群がって落ちる
そこに人は行けない
そこで人は死んでしまう
ある種の生きものにとっては
そこは何でもないところ
もっと遠くでも雨がふっている
硫酸の雨
そこに行こうとしただけで死んでしまう
すこしも近づくことができず
もっと遠くでも
もっと遠くでも
裏側の宇宙
晴れやかな
そこから想ってみることもできないほど遠くに
私たち
純粋なる接近
※
この詩人が感じている世界、見ようとしている世界、私たちに伝えようとしている世界、それはいずれにしろ、彼女が深くかかわる世界があるようです。
それは何かしら、この世には実在しない世界のようです。しかし、彼女にとっては<実在する>のかも
知れない。
<遠くで雨がふっている>その<遠いところ>はどこなのか?
バルドでもなければ、ブロギイナでもない。しかも、バルドは物語や神話に登場する土地や国の名前のようです。
彼女が説明すればするほど、遠いところはますます遠くなり、ますます、その現実世界からは遠くなるのです。それにもかかわらず、彼女はその場所について一生懸命私たちに何かを伝えようとしているようです。
話は突然飛びますが、以前私はイギリスの車椅子に乗った物理学者ホーキング博士のベビーユニバース(小さい宇宙)にびっくりし、感動したことがあります。
そのベビーユニバースは私のすぐ側に、その入口があるということでした。この詩を読んでいて、なぜか私はベビーユニバースのことを思い出したのです。
もしかしたら、人はそれぞれベビーユニバースのような世界を持っているのかも知れない。そこでは、日頃みんなと一緒に生きている場所では見えないものが見えるのかも知れない。
たとえば、硫酸の雨のような恐ろしい雨、それは宇宙の裏側にあるのか、意識の裏にあるのか、いずれにしても、遠くにあるのか、それともすぐ間近にあるような気がする、この詩を読みながら、こんなふうに思いました。
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