氷が説けるとき ロッテ・クラマー 木村淳子訳
幾日も
雪と氷が厚くおもく
草の上をおおつている
銀色のおおいは川や湖のうえにも
油のように頑固に
居座っている
草の葉も小枝もそれぞれに
金属のような氷のよろいを着ている
光は歳月を真ふたつに切る
小さな私は父のかたわら
その手のとどく
すぐそばにいる
私たちの足は注意深く氷の上を歩む
ラインの川は いま
終わりのない 白いあたらしい道となり
頼りがいのある河は消えて死んでしまった
それでも 生きている
その広いかたい胸の上に
遊園地の雑踏ができるとき
紙面のかわりに
かたく凍った河のうえで 踊りながら
人びとがその河の流れ行く先も
起源も否定するとき
けれど 詩だけは 流れつづけようとするのだ
凍てついた言葉が解けるとき
ひとつの詩を読んでいて、その意味内容がはっきりとはわからない場合があります。
ああなのかな、こうなのかなと思いながら、何度か読んでみますが、それでもはっきりしません。それにもかかわらず、私のなかにあたらしい出会いというか、経験のようなものがかんじられて、そうしている
うちに、私はその詩を受け入れようという気持ちになります。
私にとって詩との出会いは、ひとりの人との出会いと同じようなもので、その人の考えや行動について、よくわからなくても、出会ったとたんに、魅了されてしまうこともよくあるからです。
その人の目の輝きや、落ち着いた声などが理由で。
ところで、この詩が私をひきつけたのは最後の二行です。
<けれど 詩だけは 流れつづけようとするのだ 凍てついた言葉が解けるとき>
この言葉は、私に何一つ曖昧なところなく、伝わってきました。
そして、これをもとにこの詩を読むと、すこしぐらい内容がわからなくても大傑作という感じがします。
良い詩はこうした不思議な力を持っているのではないかと思います。
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