てのひら 伊藤悠子
四階の窓辺から
誰もいないバス停を見つめている
まっすぐ落ちていく蝙蝠のように見つめている
バス停も
草も
あれほど遊んだ草たちも
もはや昇っていくように
わたしより上だ
わたしが落ちていくので
なにもかも上になって遠ざかる
懸命に思い出す
てのひらだけを
きっとよいものだから、死は一番最後にとって置きなさいと
幼子をあやすように言った人の
てのひらを
誰もいないバス停に見つめている
わずか16行の作品で、決して長いのではないのだけれども、私は久しぶりにスケールの大きな世界
をこの詩に感じました。
しかも、同じく胸がきゅんとなるようなリアリティも感じました。
この詩には、恐らく、二つの視線があります。その一つは<四階の窓辺から 誰もいないバス停を見つめている>ともう一つは<てのひらを 誰もいないバス停に見つめている>のこの二つから生まれています。
そして、この二つの視線は大変精妙に、というか「奇蹟」のように融け合っています。
この融合をどう感じるかによって、最後の二行は<てのひらを 誰もいないバス停に見つめている>大変ちがったものになるのではないかと思います。
大きなスケール、大きな深さを私はこの詩に感じます。
ここまで、書いて、私はリルケの「秋」という詩を思い出しました。
「けれども ただひとり この落下を
限りなくやさしく その両手に支えている者がある」 富士川英雄訳
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