それから

 それから、どこからかタバコを出して吸っている。とてもいい気持ちらしかった。しばらくすると男は消えてしまった。
 全部でどれくらいの間、私が彼を見ていたのか、せいぜい20秒か30秒ぐらいであろうかと思われた。それなのにどんなに待っても二度と彼は現れなかった。まるで夢のようだった。詩とはああいうものではないかとも思われた。
 また屋根に登ったり、非常階段をひらり、ひらりと登る男を見たら、警察に通報するだろうかと考えた。私はそんなことはしないし、何か犯罪をしでかす男には見えなかった。私はあのひとの気持ちがわかるような気がした。あのひとは何かに挑戦しているのだ。しかし、ビルからビルへよじ登ったりする人を映画ではなく現実に見るのは初めてなので、私はおおいに興奮した。とうとう、こんなことをする人まで現れたかと思うと楽しかった。

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