「投光」 関 中子     もうひとつ

投光  関 中子
わたしは町の奥に住んでいる
町の東側に向かってずんずんずんずん歩くとわたしの住処に辿りつく
そこはかたつむり通りの向かい側になる
柿の木森の東隣ですすき原の西
くぬぎトンネルをぬけたところ
くぬぎトンネルに入る前に
夜になると西に沈んだはずの太陽がそっと隠れたつもりのような
太陽の幼子団地と名づけた建物群が散らばる
北の大地は太陽の幼子団地に仄かに照らされて地上に浮かぶ
そこで輝く変身山は一番迫力がある
さらに人が乗った噴火流が北に西に南へと見え隠れる
隠すものと隠されるものと
沈黙するものと声高に話すものとどちらも素敵に見える
時々 妙にもの哀しく見える
輝かない窓がいくつかあり
その窓の奥のできごとをひとつふたつ考えようとすると
窓の哀しみとわたしの胸をよぎった淋しさが
あたりまえの言葉は地中に埋めて人目に触れさせるなと震える
わたしには別れた双子の兄弟姉妹などいないのだし
わたしの窓はあの幼子団地にあるはずもない
わたしは町の奥に住んでいる
町の東側へ向かってずんずんずんずん歩くとわたしの住処に辿りつく
そこはかたつむり通りの向い側になる
柿の木森の東隣ですすき原の西
くぬぎトンネルをぬけたところ
三年前までは葛の葉橋を渡ったが
それは熊笹砦の思い出話になった
窓に向かって葛の花びらを投げた
まっすぐに投げた
でもたちまち勢いを失ってはらはらと熊笹砦を流れた
熊笹砦から西南を望むと町で誰かがまっすぐに
空に投光するのが毎晩見える
雨の日も 風の日も 曇り空の日も
まっすぐ まっすぐ見える
わたしの夢に形があるとしたらこんなふうに
空に向かって行きたいのでは?

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