言葉をあつかっていて、時々歪まないでいることは難しい。思想の深みにわけいり、闇の返り血をあびないでいることは難しい。ランボーではないが、精神の闘いはなかなかむずかしいのだ。ときどきは季節よ、城よ、無傷なこころはどこにある? などといいたくなるときも、ある。
しかし、毎日のように、わたしは新しい詩に出会う。だから、いろいろなことはさておいて、詩に魅せられてしまうのだ。この詩はいつか、解説をかくつもりだが、まだ、書けない。半月ばかりよんでいてもまだ厭きないのはどうしてだろう。きっと本人が大事にしているからだろう。
かくされた町 関 中子
緑の起伏のなかに町はかくれた
昼が夜を訪ねるように小鳥がねぐらに帰るように
町はかくれた
わたしは道をくだると背後の道は閉じた
わたしは戻ろうと思ったか いいや思わなかった
青い空が視界を飾り またかくれたが
緑であふれでる泉が町の中央でとうとうと
躍動するのを感じた
町はあちこちで休息と活動を繰り返していた
駅で街角で建物の内部で
建物も人もどちらも数が多く憶えきることは無理だった
だれにも心をこめて
通り過ぎることも握手することもできなかった
遊び相手がわたしの願いのようにあらわれてそして消えた
その安易さはわたしはどこかに連れ去ろうとしていた
見えない手が地下を千手観音のように伸びくねり緑の束を振った
地上では緑の香りに鼻孔をふくらませうっとりと町の空気が半眼を閉じた
町は母親になるだろう
歩き回る誠実な園芸師になるだろう
疲れたわたしはあまりに身近な物がわすれられないように
緑の起伏のなかに町はかくされた
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