世の中がくらいのに、生きるのがそれほど簡単ではなくなっているというのに、それでも詩はなかなか面白いし、ひとを感動させる力を持っているという、その確かさを感じました。
「一人一人の世界が楽しくて、ついつい引き込まれてしまいました。読み終わると不思議なことに、みんな親しい友人のようにかんじます」尾崎与里子さんから感想頂きました。最高のことばでした。わたしは
そんなふうな詩誌をつくりたかったのです。
尾崎さんは長いながーい間、アルツハイマーのお母さまの介護をなさっていたのですが、その合間を
縫って詩を書かれました。
「子守唄」 尾崎与里子
食事を終えて
テーブルの籠に盛られた
オレンジとレモンの
艶々した果皮を見ている
……夏のさかな
魚たちは飛び跳ね
小さく流れている子守唄の歌詞が
とぎれとぎれに耳に入ってくる
母は今 ひどく渇いて
死の床にいる
私の目の前の果実の丸い重なりは
囓れば私のひとときをいきいきとと潤すが
手を差しのべても
手を握っても
祈っても
母は
渇いたまま死んでいくのだ
さょうなら
私の唇から懐かしい甘酸っぱさが飛び散る
(唄はガーシュインの「サマータイム」より」
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