ポール・オースターの「トゥルー・ストーリーズ」という本を入江由希子さんから借りて読んでいる。まだ全部読んでいないが、この本を読みかけてから、二つの不思議なことが起こった。ひとつは、この本にでてくる短いお話はある程度はほんとうのことではないかと思うのだが、どこかはフィクションで、最後の落ちというか、つじつまがあうようになっている。そのなかで、最初あたりで大好きな話が出てくる。
作者はとても裕福なうちに生まれそだったのだが、両親が働いていて、そのお金ために離婚しなければならなかった。どうしても作者はお金を稼ぐ事が苦手で物書きとしては、贅沢な副業もあったのに、それを放棄して、カスカスの、つまり、食うや食わずの物書きの仕事をして、フランスの田舎のお城の留守番をしながら後から結婚することになる女の友達と一緒に暮らしている。ところが、物書きの仕事の収入はいつも2ヶ月遅れて゛やってきたり遅れたりする。お城の二人は本当に飢えてぎりぎりのところを、まるで天使
か月光仮面のようなナショナル・ジォグラフィックの社員の人が現れるのを待ち、お城に泊まったり、食事をしたりするホテル代ぐらいのお金を融資してもらっていたのだ。今回もとても飢え二人は最後のとっておきの食べ物をオーブンに入れて散歩にでかけると、食べ物はすっかりこげてしまった。それでかなり深刻に
絶望的な時間を何時間かすごしていると、なんとまあ天使のようなあの男が青い車に乗って現れた。そこで、読者であるわたしは深く感動して夕暮れの窓をながめたのであるがちょうど、それから、2週間もしない内に、私たち夫婦は「ナショナル・ジォグラフィック」を約100冊もあるひとからプレゼントされた。美しい写真の本で、たとえば、謎につつまれたカモノハシの生態を研究する女の学者とか
鯨ははじめ地上に住んでいて、足がはえていた化石を見つけた話とか、中国に入っていき中国人の生活を記録したアメリカ人だとか、アホウドリのおおきな姿を撮影した日本人だとか、水野るり子さんが好きそうな話か゛いっばいのっている。フランスのレヴィ・ストロースもこの雑誌を愛読していたそうである。
二つ目の偶然は、わたしはル・クレジオの小説をとても好きであるが、もうひとつ、このポール・オースター
のような方法の短編なら、つまり、本当のことは本当ことなのだが、やむ得ずフィクションにしているという
方法がとてもすきになって、まるでブログ向きの短編小説ような気がした。あまりグルメな小説より、ひどくリアルでなにか精妙な偶然によって創られたこの世に生きる不思議を感じさせてくれるストーリー、詩人でもあるし、なにしろこの困難な時代を生き抜き、なにかしら納得させるものを与えてくれる。
いつかこういう小説を書けたらいいなと思う。
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