「僕がなぜハスのことを知りたいと思ったかといえば、君と暮らしているからだ」と今日ハス博士はいって、まったくびっくりした。「でもどうして?わたしとハスと何の関係があるの?」と聞いた。「ハスは恐らく、
エジプトから伝わってきたのだよ。それから、インドに伝わり、タイやミャンマーに伝わり、中国を通って
日本に入ってきた。でも、エジプトからどのように、インドにつたわったかはわからない。恐らく、ナムの海のナムの国のひとびとがハスを運んだのだろうけれどね。エジプトとインドの間にあるイランやイラク、昔のシュメール文明にはあまり、ハスが見つからないのは、どうしてかわからないけれど。もう何千年も前のことだから、よくわからない。ハスはハスという物体以外のものがなく、あまり論理的でないルートを伝わって、アジアの人に愛されてきた。このあまり論理的でないものという意味できみも何かをひとにつたえようとしているからさ。」とハス博士がいう。「それじゃあ、わたしがいうことは、お里が知れるわけね。」
「そんなことはない。そういういみじゃあない。つまり、僕自身が矛盾しているんだよ。つまり、あまり論理的じゃないハスという実体を論理的にかたろうとしているからさ」「ふーん」わたしはわかったようなわからないような気分になる。「じゃぁ、文化人類学はみなそうなの?」「まあ、そうだな」
ところで、埼玉県の行田市にわたしたちがついたのは、まだまっくらな3時半、車のなかに蚊が一匹入ったので眠れなく、うっすらと開け始めた広大なハス畑を男たちはあるきはじめた。白いハスばたけのむこうに、大きな池のようなものが見え、ざわざわとするおおぶりのハスが揺れている。なぜこんなところに
わたしはいるのか?あの三人の男たちはだれなのか?どんどんハス畑のなかに入っていき、池のなかにひかれている橋を渡ってはすのなかに見えなくなった。シーンとしていて、ハスばかりがかすかにゆれている。ここは天国でもなければ、極楽でもない。ただ現実のハスがほんのすこし開き始めたらしい。
ヴィシュンヌは原始の水に横たわり、そろそろ世界を創ってみようかとおもった。かれでもあり、かのじょでもあるヴィシュンヌはお臍のあたりから茎のようなものをのばし、そのうえに、ハスの花を開いた。その開いたハスの花のうえにブラーフマンを乗せた。ブラーフマンはこうしてハスの花のうえで世界を創造した。まさか、では、この池でハスはしずかに開き、あちらでもこちらでも数かぎりない世界が創造されているとあなたは考えるのですか?博士。 その向こうの池ではビスケット工場にしようと掘り返した土の中から、1200年〜3000年もの時を眠っていた世界がいま目覚め、いくつもいくつも光を浴びてすきとおり
花ひらこうとしているのですか?博士。 あの花の話はエジプトからインド、タイ、ビルマをとおり、中国をとおり、
そんなに遠くやってきたのですか?博士。それなら博士。論理もへったくれもなく、花が開く時にやってくる世界をよくみてみなければ。花が開くときに奏でられる音楽をきいてみなければ。香りをかいでみなければ。ねえ。
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