ささやかなこと

先日土曜美術社から新・現代詩文庫が出版された。
たくさんの方からお手紙をいただいて有り難いことと思っています。
未刊詩篇の項目の冒頭に、「死んだ犬に」という詩を置いた。詩みたいなものを意識して
書き始めたのは、どうもこの詩あたりがきっかけだったような気がする。(日記みたいな
詩はずっと書いていたけれど)。この詩はナイーブな詩で恥ずかしいが、死んだペルに敬意
を表してどうしても入れたかった。
ペル(迷い犬の野良)は真っ白い犬だと思ったが、洗ってみたら、横っ腹に薄いベージュ色
の斑点が一つ浮き上がってきたので、はじめは真珠を意味する《ペルル》にしようかと思っ
ていたが,一字減らして「ペル」にした。
その頃家は埼玉県の新開地だったので、家の前は麦畑やイモ畑が広がっていた。夜だけ
放してやった時、ペルは嬉しそうに駆けまわり、畑に撒かれた農薬団子にでもあたったのか、
夜明けに犬小屋の前に横たわってひっそり死んでいた。悲しくて、押し入れに隠れて泣いた。
ちょうど月遅れのお盆の日だった。太陽がぎらぎらする真夏だった。
ちょうどペルが苦しんでいた夜明け前、私は夢の中に立って、色とりどりの松葉ボタンの花々を
見ていた。なぜか忘れられない。もう何十年も前のことだけれど。

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