いつか別れの日のために(高階杞一詩集)

『いつか別れの日のために』(高階杞一詩集)が届いたのは、ちょうど蓼科への旅に出る直前だったので、鞄にいれてそのまま出かけた。短い旅だったが、その間ずっと読んでいたので、蓼科高原の緑の空気といっしょに、心に染み入ってしまった気がする。こういう詩の読み方ってなかなかできないし、タイミングも良かったのかもしれないが、それ以上に詩の力だったと思える。
        純朴な星
                                     高階杞一

宇宙の片隅に
とても純朴な星がありました
地球のように
そこには
海や川や草木があって
とうぜん 人間みたいな人もいましたが
地球と違って
人は寿命が一日ほどしかありません
朝 陽が出る頃に生まれた人は
翌朝 陽が出る前にはみんな死んでしまいます
久し振りだね
というのは
この星ではほんの数十分のことです
半日も会わないと
もう顔も忘れるほどになってしまいます
ですから
この星の人たちは
大切な人と出会ったら手をつなぎます
手をつないだまま仕事をし
手をつないだまま本を読み
手をつないだまま食事をします
そして
死ぬときにやっと手を放します
「ずっと手をつないでくれてありがとう」
それがこの星でのお別れの言葉です
夜中 外に出て
空を見上げていると
なつかしい声がひびいてきます
暗い空から
「ズット手ヲツナイデクレテアリガトウ」

ずっと手を
つないでいてあげられなかった僕に
        草の実 
散歩に行くと
犬は草の実をいっぱいつけて
帰ってきます
草むらを走り回るので
草の実は
遠い草むらから
我が家に来ます
こんにちは
とも言わず
我が家の庭で暮らします
春になり芽を出して
どんどん大きく育っていきます
庭はいろんな草でいっぱいになります
私と犬は草の中で暮らします
草の中で
ごはんを食べて
排泄をして
いつか
さようなら
とも言わず
私も犬も 順番に
ここから去って行くのです
どこか
遠いところへ
草の実をいっぱいつけて
”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
この詩集を読んだとき、とても哀しくなった。私にとって生きていることの哀しさ…みたいなものを
ひたすら感じてしまう…このような詩集に出会うのは、多分初めて?だろう。遠いところへ”草の実を
いっぱいつけて”去っていく。…ほんとだと思う。幼いころ草の実をいっぱいつけて家路についた
ことがあったっけと思い出す。もうその野原はどこにもない。
ところで浮世の草の実というものもありそう。年月とともにいっぱいそんな実もわが身にくっついて
いるかもしれない。せめてそれらが緑いろしたきれいな実だといいなあと思う。
  

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