耳のなかの兎

明けましておめでとうございます。
今年は卯年、一年休んでいた「二兎」もそろそろ追いかけようかと思っています。
           耳のなかの兎                                          
                                  水野るり子
   月夜に耳をかたむけていると
   兎が二匹やってきた
   (おや アリスはゆうべも月を修繕してないな
   (もう満月なのに
   (波長がずれている
   (メロンの10%ほどの音色で
   (カモメたちの高さで
   (空気の粒子が荒れている
   (ゆれるベッドの上で
   (子どもたちが夢の投網をたぐっている
   (あれは幼い蛾の一種かな
   (でも今夜は藻がふえすぎていて
   (大気のなかいっぱいに からまって
   (投網もほつれかけている
   (すきまから魚たちが ほら
   (サヨリもイカも 星みたいになって
   (だんだん空の中途へ消えていくね
   黄ばんだ羊皮紙をめくるように
   兎たちの会話はとぎれ
   一匹が
   ポケットから取り出した時計を
    ―それは少女の頃の私のものだ―
   ためつすがめつ眺めている
   (ああ 今は何時かな 小さな雲がかかって見えない
   (また遅刻だね
   二匹の兎はそういいながら
   私の耳のなかへと
   月あかりの道を降りていった
 ””””””””””””””””””””””””””””””””
  これは詩集『ラプンツェルの馬』に載せたものです。
  月明かりの道へ追いかけていくものは、この世界から迷子になるかもしれません。     

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