短い詩二つ 

前田ちよ子さんの作品を何回か載せてきましたが、さいごに二つ短い詩を
載せさせていただきます。このブログがどなたかの目に触れ、そのユニー
クな詩世界の片鱗でも心に残していただければ、彼女もどんなにか喜ばれ
ることでしょう。
                 蜆貝
            気温が下がり
            徐々に流れの速さを落して行く河口で
            僕達は聴覚の夜に重くなる
            時に降る雨音
            時に帰る鳥の笛
            時に風の低いうなり
             小さすぎた僕等
             一生しゃべる事のない紫の舌
           二枚の固く黒い耳介の中で
           僕達は作る事を忘れた音の世界に住んでいる
            
           ほのかに舌の先にランプを点す
           何気ない平(たいら)かな砂の底の夜
             埋蔵された何千何万の言語
             ひとつひとつの僕等 
                              詩集「星とスプーン」より
                
               月と野ざらし
             まあるく
             黄色い月が浮んで
             虫達はため息ばかりつく。
             野ざらしが二つ
             酒をくみかわして
             かわるがわる月を見上げる。
                
               ところで……おん
               どうして死んだ
               ……わかん……ねえ
               な、あ、ん、に、も、な……あーん
               な、あ
             風が真青になれば
             草はきしんで枯れもする。
             あばら骨もひどく痛いもの。
             青はそれほどとっぷり深い。
             酒もしっとり
             二つの野ざらしはもう上を見つめるばかり。
             コンパスの月は定められた。     
                                詩集「青」 (1969)より
              ※      ※      ※
この最後の詩は彼女が20歳になったのを記念にと、ご自分でガリ版で
手作りした「青」という小さな詩集からです。
彼女の本質にはこのようにユーモアと飄逸さを感じさせるものがありました。
それは亡くなる直前まで届いたいくつかのメールにも一貫していました。
           
                     
            
               
                
    

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