「のどが渇いた」 八木幹夫

 6月の読売新聞掲載の八木幹夫さんの詩を、あらためてここに載せたい。

              のどが渇いた             八木幹夫

       どーっとかたまりになって走っていった
       象の大群ではない
       どーっとかたまりになって動いていった
       土砂くずれではない
       ずーっとかたまりになって揺れていた
       逃げ水ではない
       ずーっとかたまりになって働いていた
       更新された機械ではない
       ときには
       鬼の充血した目のような
       マグマをのぞかせることもあったが
       おおむね我慢した
       
       かたまりになるのは嫌だったから
       朝早く家をでて
       会社へも 外国へも
       この世の果てならどこへでも
       飛び出した
       かたまりのまま
      
       どーっとかたまりになって定年退職
       塊
       ニンゲンのかたちとは似て非なるものだ
       土まみれの鬼だ
       ついに
       コケ生す巌(いわお)となるようには
       一枚岩にならなかった
       どーっとかたまりになって死亡通知
       (ここで一同起立 君が代斉唱)
      
       ひかりの揺れる川床で
       それぞれのさざれ石はあぶくのように
       つぶやいた
       「のどが渇いた」 
             ※
読むと分りやすいが、書くのはなかなか難しい作品だ。この鮮やかで痛烈な風刺に、「やった!」と胸の中で叫んでしまった。とくに3連、4連の切れ味のよさ…。
八木さんに言わせれば,「団塊の世代の自虐と揶揄と風刺をこめた」作品ということになるが、団塊の世代でなくとも、今の時代と世相を生きる多くの人間にとっては、胸のすく思いで読める一篇ではないか。
       
        
        

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