原稿の合間を縫って毎晩寝る前の30分ばかり、佐藤真里子さんに拝借した『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター編、柴田元幸訳)を読んでいた。これはポール・オースターがラジオを通じて、「物語を求めている。物語は事実でなければならず、短くないといけないが、内容やスタイルに関しては何ら制限はない。私が何より惹かれるのは、世界とはこういうものだという私たちの予想をくつがえす物語であり、私たちの家族の歴史のなか、私たちの心や体、私たちの魂のなかで働いている神秘にして知りがたいさまざまな力を明かしてくれる逸話なのです」と、アメリカ各地の聴取者に呼びかけて、その結果集まった多くの経験談から選んだアンソロジーです。
「私たちにはみな内なる人生がある。自分を世界の一部と感じつつ、世界から追放されていると感じてもいる。だれもが生の炎をたぎらせている。そして自分のなかにあるものを伝えるには言葉が要る」と編者はいう。
この本には、ラジオからの呼びかけ後一年間のうちに送られた4千通の投稿の中から選んだ179の物語が入っている。投稿者は、あらゆる階層、あらゆる年齢、あらゆる職業に属し,住処は都市、郊外、田舎とまちまちであり、それは42州の範囲に及ぶ。これはアメリカ人ひとりひとりのプライベートな世界に属する物語でありながら、そこには逃れがたい歴史の爪あとがしっかりと示されている。…大恐慌、第二次大戦、そしてベトナム戦争の影響、アメリカ人の人種差別の病etcが刻みこまれている。
以上はほとんどポール・オースターのまえがきからの抜粋だが、私も読み終えて、「世界はなんて複雑だ。怖くて、不思議で…不可解で。そして人間とは、なんと測り知れない深い存在だろう。そしてこの世には見えない力が働いているのでは…、などと考えた。世界とはこういうものだという、私たちの思い込みを覆す物語、とはよく言ったものだと思った。これは貴重な、ほんとうに興味深い本でした。個人の物語を通して世界を感じるという経験。貸してくださった佐藤さん、有難う!やっぱり私も買おうかな…と今思っているところです。とくに「死」「戦争」「愛」の項目など、忘れがたい話が多かったです。
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