六本木の国立新美術館で、貴婦人と一角獣展を見た。
20年以上前にパリで初めて見たのだが、どうしても、もう一度見たいと思っていた。あのタピスリーの典雅なたたずまいと華やかな色彩(やや色あせた色彩が時の経過を優雅に感じさせ)、見ているだけで異界に引き込まれていくようだった。千花模様といわれる背面にちりばめられた植物や花々、そして多くの小さな動物たちの姿と表情が舞台をひときわ華やかに見せている。貴婦人の衣装や身振りも魅力的だが、一角獣の貴婦人を慕う姿態とまなざしに引き寄せられる。リルケのマルテの手記をもう一度読み返したくなる。
かつてパリを訪れる前に、秋山さと子さんに、それならぜひクリュニー美術館に行くといい…と
助言を受けたことを覚えている。その日右岸のホテルから、ひとりで左岸のクリュニー美術館へ出かけたまではよかったが、すごい方向音痴の私は帰り道に迷って、いつまでも夕暮れの左岸をぐるぐる回って心細い思いをした。
このタピスリーの印象が、どうやらその迷子の印象と一つになって、私のなかに刻まれているらしい。その後もう一度クリュニー美術館へ行っているのに、そのときは人と一緒で安心な旅だったせいか、このときのことより、その前の心細い左岸トリップの方が、忘れがたい。そして記憶も深いのだ。
ユニコーンと貴婦人が付き添ってくれていたのかもしれない…。
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