オペラ「ハーメルンの笛吹き男」を見た。世界初演。作曲・¨一柳慧、台本・田尾下 哲、長屋晃一。
第19回神奈川国際芸術フェスティバルの公演だった。
私はかつて何人かの仲間たちと「ハーメルンの会」というのをつくっていて、詩誌というか、同人誌みたいなものを出していたこともあり、なぜか”ハーメルンの子どもたち”の伝悦には特に惹かれるものがあるので、とにかく見に行ったわけだった。
でもはじめからそんなに期待していたわけではなかったのに、だんだん引き込まれて、ついにはさかんに拍手している自分がいた!
台本は原作の伝説とは、終わりの部分が変わっていて、130人もの子どもが突然消えたというショッキングな結末は、町の大人たちや政治家たちの小賢しい分別にまさる子どもの純粋さが輝かしく
歌いあげられるものだった。それはだが、この時代への大きな批評や救いともなっていて、客たちに解放感与えてくれる気がした。
笛吹き男を演じた岡本知高(ソプラニスタ)の歌声もすばらしかったし、なぜか取り残された一人の子の口笛による演奏にも心奪われた。
しかし一番心に刻まれたのは、モーツアルトの子守唄の調べだった。それは笛吹き男が子どもたちをさらっていくときに歌う調べだった。ここにモーツアルトのこの曲を挿入した技術はさすがだと思った。のびのびと、優しく、子どもたちを夢という異界へ誘い込み、夢の中に解放して、自由に遊ばせる…さあ、この入口のドアをひらいてお入り…と。
大人たちは言葉を操ることで、分別を得て、夢と遊びを忘れ、自らをもう一つの檻に閉じ込めてしまうのかもしれない。
ある研究者が「モーツアルトはアルファベットの読み書きよりもはるかに早く音符の書き方に精通してしまい、言語より先に音楽に浸りきって、大人の分別とは別の能力を発達させすぎてしまった。…モーツアルトはついに大人の分別をうまく獲得できず、未成熟な子供っぽさを生涯抱えていた存在ともみなすことができる。それがモーツアルトならではの音楽を生み出す原動力でもあり続けたのではないか。」と述べているという。
そういうモーツアルト像と、笛の響きで子どもたちと共鳴し、彼らをたちまち異界へ連れて行ってしまうハーメルンの笛吹き男の姿はどうしてもダブって見える。このオペラが特にモーツアルト的なものと結びつくのには、ひとつの理路があると思う。と音楽評論家の片山杜秀氏は書いている。
なんだか途中からモーツアルト頌になってしまったが、今でもあの笛吹き男の歌ったモーツアルト
の調べが耳の中にしばしばこだましてくる。
さてハーメルンンの笛吹き伝説とは、この世界にとって、何を意味しているのだろうか。これが自分への問いのようにくりかえし聞こえてくる。
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