中本道代・國峰照子・古内美也子さんの3人による『ORANGE』という詩誌はとても魅力的だ。
手のひらに乗るくらいの小さくて軽い詩誌だが、その内容は豊かで、詩を読むときめきを与
えてくれる。いずれもシュールな手法や新鮮な遊びにあふれ、根本には詩を生み出す自由
な精神があってそれらをそっくり読み手に手渡してくれる。
時折、風に乗って舞い込む一枚の葉のような詩人の夢の言葉に、私は愉しさと歓びをもらって
いる。
最近38号が届きましたが、今日はちょっと前の30号(2010年夏)から、中本さんの詩を
紹介します。
五月の城
中本道代
五月に行方不明になった子は
風が知っているか
毎日大きくなる葉の重なりの奥に
渦まいている小さな風の城
その中に迷い込んで
出口がわからなくなっているのではないか
小さな小さなからだになって
五月に行方不明になった子を
どうしたら連れ戻せるか
五月の向こうはただ風ばかり
ばらが首をかしげ
ジギタリスが笑いかけても
心臓は固い石になって縮む
五月に行方不明になった子が
佳いものをみんな持っていった
やわらかい皮膚
あたたかいからだ
敏捷なこころ
ひそやかな声
抱擁の幸せ
五月に行方不明になった子を
探してさ迷う
すべてを捨てて風の奥に
どうしたら入って行けるだろうか
”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
五月は晴れやかな季節なのに、いつも何か大きなものとの別れと不安を感じる季節でもある。
五月の花、みずきの満開のときには、歓びと切なさが紙一重だ。やがて失う大きなものへの予感
におびえているように。
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