脱け殻売り 柴田千晶

神奈川新聞の旅人の歌の欄で好きな詩を見つけた。切り抜いてコピーして友達にまで配ってしまった。柴田千晶さんの作品です。
            脱け殻売り
   虹色の蛇の衣…飴色の空蝉…黒いアタッシュ
   
   ケースに脱け殻を詰めて男は旅をしている。
   どの町にも必ず一人、脱け殻売りを待つ人が
   いて、必ずその一人を男は探し当てた。なぜ
   こんな旅を続けているのか、男は時々わから
 
   なくなったが、 蛇の衣に潜り恍惚としている
   百歳の少女や、空蝉の中で灯る百二十歳の少
   年の姿を見て自問することをやめた。万緑の
   中を行く男の体はしだいに透けてゆき、黒い
   アタッシュケースの底にやがて畳まれてゆく。 

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 とても不思議で美しく魅力的作品でした。でもそういう感懐よりも、具象としての脱け殻
 や、その内部で灯をともす少年たちの姿態、百歳の少女の見つづける夢の感触が無
 二の詩的魅力です。黒いアタッシュケースの内の闇にはこれからも日々積まれていく
 だろう脱け殻への予感がある。脱け殻と同じ数の夢のこだまがある。
 アタッシュケースの感じさせる重苦しさと、脱け殻の軽くはかないイメージとの違和感。
 ふと賢治の「山男の四月」に出てくる行李を思い出す。
 その行李の中身 の異様さを思い出す。
 またここでは抜け殻でなく、脱け殻と表現されている。 脱けるという表現が脱出を連想
 させるからか。 生きられて、そして消え去っていった時間の行方を思わせるからか…。
 

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