見たい展覧会がいっぱいあるので、最初に近いところで横浜美術館のエルンスト展を見に行った。
まず混んでいないのが嬉しかった。エルンストを見るのは初めてではないが、今回の展覧会は「フィギュアスケープ」(エルンストの作品を構成する二つの要素であるフィギュアとランドスケープをつなげ、後者からランドを差し引いた造語)という概念を軸に展示されているとのこと。彼の絵画の成り立ちを制作の手法とその意味の両面から理解するための指標であるという。
フィギュアとは「像」の意味で、たとえば内なる自我を表す、鳥と人との合成体である「ロプロプ」とかその他いろんなキャラクターをいう。
一方スケープとは風景的要素であり、「森」や地平線をのぞむ空間、海中と天空などの広がりを表すという。
見ていくと、デ・キリコやクレーの画を連想させるものがあって、卵形の顔をもつフィギュアもよく出てくる。彼はデ・キリコの強い影響を受け、その形而上的絵画と出会った後で次のように述べているという。
「私はそのとき、ずっと昔からよく知っている何かを再発見したような感情に襲われた。あたかもすでに見たことのある出来事が、私たちに自分の夢の世界の全領域を開示するようであった」と。
当たり前のことかもしれないが、この言葉の投げかける網にしばらく捉えられていた。
ゆっくり見ないと見落とすものがたくさんありそうで、その日は途中で切り上げたので、もう一度ゆっくり見に行くつもりでいる。彼の描く深い暗い森にまぎれこむと、出入り口の指標は見つからない。が、ちょうど見に行く直前に自分の森の詩を書いていたので、あの「森」の不思議に呼ばれている気がする。彼の駆使したさまざまの技法はそれとして、その絵はこの世ならぬ別世界を示し、しかも手に触れられる物質のようだった。
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