届かぬ声(斉藤 梢)

青森の詩人佐藤真里子さんから、このたび斉藤 梢さんの短歌70首あまりの載った詩誌
のコピーが送られてきた。斉藤 梢さんは仙台にお住まいの歌人ときく。この震災に遭われた
その直後から、時間を追って書き続けられたその短歌からいくつかを転載させていただく。
コピーされた短歌誌は『桟橋』だそうです。
         届かぬ声            
                                 斉藤 梢

二キロ先の空港がいま呑まれたと男がさけぶ 四時十一分


この力どこにあったか「津波だぞ」の声にかけ上がる立体駐車場


七分後マンホールの蓋とびあがり周囲はすべて水の域なる


くろぐろと津波が至る数秒を駐車場四階に見るしかなくて


閖上(ゆりあげ)漁港呑みこみていまマンションに喰いつきてくる津波ナニモノ


閖上の「浜や」へ食いに行こうかと。 夫の声が声のみ残る


十二日の朝日を待ちてペンを持つ 言葉は惨事に届かぬけれど


避難者の三十一万に含まれて車泊のわれら市役所駐車場


桜餅のさくらの色の懐かしさひとりにひとつの配布に並ぶ


木のごとく立ちてゐるなりわが裡に「戦争は悪だ」の結句が強く


夜のうちに溜まりしものを文字にして書き始めゐる今朝も車中に


推敲はもはや必要なくなりてただ定型に縋り書きつぐ

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斉藤 梢さんは、震災に遭われたそのとき、偶然外出先で拙詩集「ユニコーンの夜」
を、バッグに入れておられた由、佐藤真里子さんからのメールで以前知りました。
とても胸が痛くなり安否が気遣われてなりませんでした。いま、こうして現場からの
切迫した思いを乗せたなまの声に触れ、感無量です。
この「届かぬ声」は次回に続けます。

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