名前のない馬
岩木誠一郎
好きな動物は何か という質問に
馬 と答えたときから
すらりと四肢の伸びた生き物が
わたしのなかに棲みついている
電車に乗っているときも
街を歩いているときも
風にたてがみをなびかせながら
遠い物音に耳をすませている
夜が来て
だれかの絵のなかで見た風景が
濃い影をまとって現れると
天に向かっていななくこともある
星空のどこかに
帰る場所があるのだろうか
愁いをおびた眼の奥には
夕陽が燃え残っているのだが
朝
カーテンを開けると
蹄のかたちをした雲がひとつ
ぽっかり浮かんでいることがある
””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
昨日、根岸森林公園の隣の馬の博物館に立ち寄った。白い馬や栗毛の馬が4頭、馬場を
駆けていた。馬場の隣の厩舎に繋がれているのが一頭だけいて、鼻筋が白く、左の後足の先だけが白い。写真を撮りたくなって声をかけたら、大きな目で、じっと私を見てくれた。岩木さんの詩の通り、やっぱり愁いをおびて、澄んだ眼の色だった。花吹雪のなか、馬のその眼を思い浮かべながら帰ってきた。
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