うさぎ
絹川早苗
うさぎが 長い耳をたれて
夕焼けを聴いています
耳のおくの もみじばやしが
赤や 黄や あめ色に染まりはじめ
いちまい にまいと 葉を落としていきます
ひとり住まいの 銀髪の女のひとが
おんがくを聴きながら
アルバムをひらいています
古い写真は すでに色あせ
うす茶色の蛾となって 飛びたっていきます
やがて
ひざの上に さらさら 粉雪がふりしきり
こんもり 温かく つもっていきます
うさぎは もう
ねむってしまったでしょうか
””””””””””””””””””””””””””””””””””
絹川早苗さんのちょっと異色の詩です。「うさぎ」と、「銀髪の女の人」のイメージが
二重に重なって、おもしろい効果が出ています。うさぎの耳の奥では夕焼けの中にうつくしい紅葉がはじまり、女の人の耳の奥にはなつかしいが、色あせたアルバムがひらかれていて、しかも写真は一枚ずつ「蛾」となって時の中へ飛びたっていく…。
でも粉雪はあたたかく膝につもりはじめ、うさぎは季節に身をゆだねて、安らかに夢のなかへ入っていく…。どこか、許されて、人生と折り合いをつけた安らぎの境地が見え隠れして、詩人のいまの心情が想われました。
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