またご無沙汰していました。
今日は鈴木正枝さんの「キャベツのくに」という詩集のなかから二扁の作品を挙げさせていただきます。
読むひとによっても、読む状況によっても、いろんな風に読めるこわい詩です。
月の丘 鈴木正枝
夜が来て
熱が引くと
からっぽの頭の中に
月がのぼります
無理やり束ねておいた神経が
さわさわと
枝葉を拡げ
森のように騒ぎ出す
丘の上
真昼間埋めたばかりの
寂しい私のにくしみが
見つけられそうになって
急いで目を閉じます
月あかりを消して
もう一度
深く
深く
埋めなおさなければなりません
その分だけ
重くなった身をおこし
引きずって
床にころがっている
もうひとりの人の
瞼を開いて
中を覗き込みます
あなたも何か埋めましたね
丘の上は
何年もの光のあくで
まっ蒼
見るばかりで
誰にも見られない私の月は
決してやせることなく
まあるくまあるく
破滅にむかって進みます
あなた
完璧な満月が
のぼりましたよ
”””””””””””””””””””””
破滅に向かってまあるくなっていく月…
丘の上は何年分かの光のあくで蒼く染められている…
ほんとに この地上に埋められたにくしみと寂しさの総量を、天上の月が
照らし出したら、どういうことになるでしょうか。
もう一つ詩を挙げます。
松は 鈴木正枝
松は
数ヶ月の潜伏期間を
ひとりで耐えた
数百匹の虫たちは
内へ内へと潜入していったが
松は
すべてを明け渡しながら
ついに松であることをやめなかった
予定されていた
その時が来たとき
耐えてきた緑を
ふつりと断ち切り
断ち切った痛みに
松は
初めて小さく叫びながら
そのままの形で物になっていった
物になったまま
物として
松は
松であり続けた
きっかりと潔く
夕陽のような赤を
野に流して
松は
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