今日は尾崎まことさんの新しく出された大人のための童話集『千年夢見る木』から
短い詩を一篇入れさせていただきます。
これは文庫本くらいの大きさのハードカヴァーの本で、表紙の色が鮮やかな黄色、
左子真由美さんの挿絵もきれいです。”9つの夢の贈り物”と表紙にあります。
最初の頁をめくると次のような文が目に入ります。
「この宇宙はほんとうは美しい図書館です。なのに大きすぎて
その入口が分からないと、もどかしく思ったことはありませんか。
あなたは、不思議で驚きに満ちた、大切なその一冊に違いありません。
この小さくて黄色い本がその扉になってくれたらうれしいです。」
(著者)
林檎ランプ
尾崎まこと
林檎山の林檎の木
風が吹くと
まだ青くて小さいけれど
鈴なりの子どもたちが
かりん こりん かりん
いい香りで鳴ります
昼間は見えないけれど
一つ一つのまんなかには
小さな炎が
灯っているのです
夜になると皮をすかして
ほんのり明るむので
林檎山全体まるで
輝く童話の森のようです
林檎ランプは
夕焼けの空と同じように
だんだん水色からピンクへ
ピンクから茜色に偏光し
私たちのために美しく
美味しく熟していくのです
今年の秋
ナイフでさくっと割っていただく時
林檎ランプ
つまりそのまんなか
灯し続けた炎のあとを
たしかめてこらんなさい
””””””””””””””””””””””””””””
夜になると、皮を透かして、中心にある林檎の芯が炎のように内側から明るんで
来るので、林檎山全体が闇の中でほんのりと輝くという描写、林檎を食べるとき
燃え尽きた炎の痕をたしかめてごらん…というところ、すばらしいイメージで林檎
一個が自分の中でよみがえってきて、この柔らかな感性に共鳴してしまいます。
それからこの小さな一冊の童話集が宇宙の図書館の入り口である…という哲学的
イメージに触れると、ああ、そうか…この自分もその蔵書の一冊だったのだと
気がついて、自分という存在のかけがえのなさを感じさせられるのは、不思議な
ことばの力です。
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