影, Shadow(E・Cranston訳)

          影  より
                                             水野るり子
       雪が一日中降っています
       子どもが窓からのぞいています
  
       木は貝類のほのぐらい夢のなかから
       ほっそりと身を起し
       さびしい夢の触手みたいに
       吹雪の中でゆれています
          〈ゆきの底には
          大きな水色の貝が死んでいるよ……〉 
       鳥は銀のほうきの一閃で
       翼と足をもぎとられ
       まっ白い調理場へ
       さかさまに投げこまれていきます
          〈おかあさん
           おかあさん
           ぼくを助けて……〉
       灰色の分厚いカンヴァスのおくへ
       子どもの声が吸いこまれていく夕刻
       一粒の涙が
       大きな黒い影をひいて
       空の深みへ落ちていくのです
                   Shadow -after Klee’s ‘Image d’hiver.’-
It’s been snowing all day
A child is looking out a window
Trees lift slenderly
from murky dreams of shellfish
wavering in the blinding snow
like lonely antennae

Wings and legs swept off
in the flash of a silver room
one by one the birds
are tossed upside-down
into a spotless white kitchen

The child’s voice
is sucked into a thick, gray canvas
in the evening
A single teardrop
trailing a huge, black shadow
falls into the depth of the sky
    

カテゴリー: 未分類 パーマリンク

影, Shadow(E・Cranston訳) への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です