高階杞一さんの新詩集『雲の映る道』には好きな詩がたくさんあった。以下はその中の作品からです。
いっしょだよ
かわいがっていたのに
ぼくが先に
死んでしまう
犬はぼくをさがして さがして
でも
いくらさがしても
ぼくが見つからないので
昼の光の中で
キュイーンと悲しげな鳴き声をあげる
その声が
死んだぼくにも届く
ぼくは犬を呼ぶ
こっちだよ こっちへおいで
犬はその声に気づく
ぴたっと動きを止めて
耳を立て
しっぽをちぎれんばかりに振って
一目散にぼくのところへやってくる
ずいぶん痩せたね
何も食べてなかったの?
キュイーンとうなずく
ぼくは骨をあげる
犬はぼくの骨をたべる
おいしかった?
クー
これからずっといっしょだよ
”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
哀しい詩で、とくに犬の好きな私なので身に染みました。骨に関しては、もうひとつ、とても忘れられないような「春と骨」という詩があるのですが、あえてここには入れませんでした。いつか読んでください。子どもさんをなくされた詩人の経験の深さが、短い詩の中から切なく伝わってきて、前の詩集『早く家へ帰りたい』をもう一度読み直したりしました。
新世界
リンゴの皮をむくように
地球をてのひらに乗せ
神さまは
くるくるっとむいていく
垂れ下がった皮には
ビルや橋や木々があり
そこに無数の人がぶらさがっている
犬も羊も牛も
みんな
もうとっくに落ちていったのに
人だけがまだ
必死にしがみついている
たった何万年かの薄っぺらな皮
それをゴミ箱に捨て
神さまは待つ
むかれた後の大地から
また新しいいのちが芽生え
みどりの中から鳥が空へ飛び立つときを
そこに僕はいないけど
人は誰もいないけど
””””””””””””””””””””””””””””””””””””
新世界っていうのは、人間のいない世界なんだと気がつきました。
まだ神さまのゴミ箱の底にうごめいている一人として。
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