詩 夕餉の食卓

今日は佐藤真里子さんから送られてきた詩を載せます。2008年10月10日に陸奥新報に載ったものです。
              夕餉の支度             
                                  佐藤真里子
         西の窓が薄赤く染まるころ
         (行こうよ…)と
         背後から近づいてくる闇に
         負けないように
         わざと音を響かせて
         野菜を切る
         同じ生きものの生臭さで
         包丁に力をこめて
         魚をさばく
         沸騰する鍋のふたを取ると
         いきなり吹きかかる湯気が
         何もかもを
         眠りの夢に変えそうで
         思わず開ける窓
         外は沈む陽の色になり
         虫たちの奏でるヴァイオリンは
         高く低く余韻を引き
         (行こうよ…)と
         すすきの穂のたてがみをゆらして
         幻のけものたちが駆けていく
         その先には
         いつも気配だけで背中合わせの国
         夕暮のさびしさの訳を
         知っている国がある
         毎日、いまごろ
         その国行きの電車が停まる駅が
         かすかに見える
         (行こうよ…)と
         宙から下りてくるレール
         宙へと消えるレール
         今日も乗りそびれて
         電車が走り去る音だけを聞く
         魚の美味しいスープは
         煮えたけれど
             ””””””””””””””””””””””””””””””””””     
いい詩だなあと思った。日常の当たり前の行為と、それをめぐる時間が、想像力によって、一気に広がり、深まり、宇宙性を取りもどす。詩人は言葉によって時間の質を変貌させてしまうのだ。ファンタジー的な手法がうまく生かされていて、(行こうよ…)いう呼びかけのくりかえしが、時の経過をリズミカルに伝える。銀河鉄道999のイメージも浮かぶ。秋の夕ぐれのさびしさと、憧れに似た想いが、ロマンチックな心情を伝えてくる。そして最後に今夜の美味しい食事タイムを連想させるのもさすが…。

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