三泊四日の富山、金沢への旅は充分にあかるくて、しかもたのしく、今も車窓から見た立山連峰の鮮やかな全容や、それ以上に旧交を温めたMさんの笑顔などが目に浮かぶのだが、それはまたあらためて書きたい。
旅の帰りの車中で、一冊だけ持参した「村上春樹はくせになる」(清水良典)を読み終え、以前から興味があった春樹の作品を最初からまたあらためて読み直してみたいと思ったのだが、いやいやその前にまず、このところずっと気にかかっていた大庭みな子の全作品をまず読みなおしたい…などと思いながら、帰ってきたのだが、帰るなり夕刊で、《大庭みな子》の訃報を読むことになった。私にとっては大きな意味を持つ作家だった。初めて「三匹の蟹」や「魚の泪」を読んだ時のあの不思議な眩惑感を忘れることはできない。5月24日午前9時15分逝去…という新聞の活字を見つめてているうちに、自分がちょうどその頃金沢のホテルをチェックアウトしようとして、部屋で腕時計を見ていたその瞬間のことをはっきり思い出した。ああ、あの時だったのだと…。
深層から表出される葛藤に満ちた人間のドラマと、感覚的なうつくしい文体が微妙にない合わされ、奔放な悪の匂いさえ漂うその文学は、限りなく読者の心ををひきつけた。そこには自己を裏切れない、いきのいい女たちがいた。年を経て、時代も変わったが、もう一度読み返して、大庭みな子がこの世に遺していった言葉のもつ意味をもう一度味わいたい。五月はほんとうは昏いのだと気がつく。
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