この羽生槙子さんの詩集には、”いっしょに暮らしている人”についての詩が、このほかにもいくつか載っていますが、今日はちょっとまた違う味わいの作品を紹介してしまいます。
これは夢についての詩のようです。
旅芸人のはなし
「わたしたちみんなで 家を捨てて
旅に出ることになったの
ピカソの絵の旅芸人のように
サーカスをする人たちのように
旅は海
夕暮れ 海辺でわたしたちが地引き網を引くと
魚ではなくて とりのからあげがあがってきた
とても大きいからあげだった
きたないような きれいなような
けれど 地元の人たちが来て
そんなおおげさなことをしてもらっては困る
と言うから わたしたちはまた
荷物をたたんで旅をしたの」
夢のはなしを 朝 わたしは家族にしています
そこから 波瀾万丈の暮らしがはじまった夢
家を捨てて みんなで旅に出るはなし
旅芸人になるはなし
その先を わたしがもう覚えていないはなし
だから だれも知らないはなし
そこでわたしは何をし
わたしの家族は何をしていたのだったでしょう
わたしたちは 赤や青の服を着ていたようでした
だれか上半身裸で だれかタンバリンを持ち
地引き網は藻がからみ
さびしくて サバサバして
けれどお互い話したいことが次々あって歩き続けていた
※
おもしろい詩ではありはませんか。その家族たちは(自分も含めて)今もどこかでその続きを暮らしている…そんな気がしてきませんか。私はこの詩の中で、2連目の「地引き網は藻がからみ」という1行が、この詩にリアリティを与えている気がします。詩の1行の力は不思議です。私は不思議な詩が好きです。
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