列車に乗った男

パトリス・ル・コントの《列車に乗った男》をようやく見た。公開されたとき、というより新聞の予告で見たときから、ぜひ見ようと思いつつ、見そびれていた作品。
二人の孤独な男の、偶然の出会いからわずか3日間の短いふれあいと心の交流。会話が主体の静かな、むしろ地味な映画だが、見終わって、深いみどりの水面からゆらゆらと小石が沈んでいく…どこまでもその小石のゆくえを見ていたくなるような印象の切ない映画。あれはシューベルトの曲?。初老の一人暮らしの男の弾くピアノの音色が響く古い館、そこで男二人の交わす途切れがちだが味のある会話、朗読されるアラゴン?の詩の美しさ。互いにもうひとつの人生への夢を抱きながら、それぞれの運命を果たしにむかう二人の姿、(この辺はハラハラドキドキ)。そしてラストの、余韻を残す幻のような美しいシーン。生きる哀しみ。寡黙なロマンティシズム。ああ、やっぱりフランス映画はいいなあと思う。翳のあるジョニー・アリディと孤独で飄逸なジャン・ロシュフォールが引き立てあって魅力的。
ただ私は、始まりの10分ばかりを歯医者さんの予約でやむを得ず見逃したのが残念。映画は始まりがやっぱり大切。始まりの部分をちゃんと見なかったら最後のシーンが生きてくれない。もう一度はじめから見たい!どなたかこの映画を見た方がいらしたら感想を伺いたいなあ…と思う。映画も行為やモットーだけではなく、どうしようもなく生きている、ヒトの内面を描ける筈だ。

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