國峰照子さんの詩集『CARDS』は粋な詩集だ。造本、装丁、内容がぴったり、息が合っている。
ヒカゲトンボ
青い風のまなざし
青い椅子の聞き耳
青い果物皿の欠けたふち
時が自習する
破線の行く手に
かげろう
青の末裔
きのう 見たでしょ
いいえ 見ませんでした
二十世紀に絶滅した
青いシラブル
帽子のひさしに止って
すぐ落ちた
巧みな詩。詩が完璧な壷のように自己完結していて、誇り高い?詩だなあと思う。「私は私でいいのです」という感じ。詩でなければ書けない詩。余分なことを、あえていうと、口に出せない哀しみがあって…。「昨日見たでしょ?」ときかれても、「いいえ 見ませんよ…」とさりげなく答えてしまうダンディズム。
もう一つ引用させていただく。このユーモアがいい。これもプライドのあるうさぎ一匹。会ってみたい。
ナキウサギ
氷河の爪痕
標高ニ千米の岩場で
春風に酔いをさます
ナキウサギは
優雅な耳の先を
古里の床屋で
さっぱりと
切り落としてきた
かわりもの
秋口にはせっせと
葉っぱを集め
乾し草をつくり
冬は
やわらかい記憶のわら床で
花の蜜のおいしい
春を待つ
季節は裏切らない
ともだち
耳が丸い理由など
どうでもいい
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