ペッパーランドの同人の八木幹夫さんが「日本語で読むお経」仏典詩抄という本を出版された。
風邪の治りぎわでもあり、タイミングがよくて、これもベッドの上で申し訳ないが、早速読ませていただく。
やさしい表現だが内容は結構やさしくはない。しかしお葬式でなじんだ数々のお経をルビを振られた原文を追って、声に出して読んでみると、あまりにすらすらとつかえずに読めるのでびっくりする。もちろん上部には日本語の詩的な訳文がついているので意味を見ながら読めるわけで、これはなかなかよい。無人島に一冊もっていくならどんな本?などというアンケートがあるが、これは候補の一冊かなと思う。
般若心経、観音経、法華経など13の代表的なお経が載っているなかで、最初心にとまったのは、「法華経方便品(ほけきょうほうべんほん)のおわりに書かれている次のような一文だった。
(これは訳者の解釈による文であると註にある)
野の花にたとえていえば、こうです。
今、光をあびて野に花が咲き乱れています。しかし秋が来て冬が近づけば、花々はたちまち枯れ、かつての生命に溢れた世界は一変します。緑の野は色を変え、花の姿はどこにも見当たりません。でも大地の枯れ草の陰にはおびただしい草花の種子が隠されています。夏の間、光や風や雨や虫や鳥が草花にかかわっていたからです。やがてふたたび春が巡り、天の法雨と光を受けて種は芽を吹き、大地の養分を吸収して見事な花を咲かせます。このように花は一度はこの世から消えたように見えても果てしない宇宙の因縁の輪の中で滅びることがないのです。これをそのまま、あるがままに受け入れること、それを諸法実相というのです。
これは八木さんがつけた解説文だと思う。私はこれを読んで偶然最近よんだばかりの、町田純の「草原の祝祭」のことを思った。ネコのヤンが草原のなかに立つ一本の樅の木のてっぺんに星の飾りをつけに行く透明感のあるファンタジー。私はそこに秘められたすべての生命への愛と祈りと、過ぎ去る時への哀しみに打たれるのだが。そのなかにパステルナークの「冬の祝祭」からの引用による次の一節がある。
未来では足りない
古いもの 新しいものでは足りない
永遠が 草原の真ん中で
聖なる樅の木にならなくてはならない
原詩では「永遠が 部屋の真ん中で」となっているが、ここでは草原の真ん中で、に変えられている。それはヤンが永遠を星のかたちにして、幼い樅の木に飾りつけるというお話だからだ。
永遠とは何か。と考えていたらそれは「法華経」のなかの(あらゆる存在は空なるものです。生じたり滅びたりするように見えても,生じもしなければ滅びもしないものです。)以下に通じるものと思えた。いつも「今というこの一瞬」を信じるというネコのヤン。彼に「空」と「永遠」のことを話したらヤンはなんと答えるだろうか。今日のところ私はこんな理解で結構満足しているのだが。
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