マーク・ストランド

 このところずっと風邪を引いていて、さっぱりよくならない。といっても少しずつは、ましになっているのかもしれないが。そんなわけで大事な会合にも二回続けて欠席してしまうことになって残念だ。明日は隔月のファンタジーの会で、町田純の「草原の祝祭」を読むことになっているのに。私はもう何回か読んだのだが、読むたびにやっぱり魅力ある作品だと思う。作者は自身の世界観や思念を、詩のかたちであらわしたかったのだろうか。決して意味に要約しきれないから、逆に心に残るように思う。
宇宙の星々や月を小さな帽子に入れて、草原の樅の木に吊るしにいくネコのヤン、著者の想念が風のように草原を流れつづけ、それは、人生の時間と似ている。読後もしばらく私はヤンと一緒に日々を過ごしていた。
 
                            ж
 さて、ベッドの上で昨日マーク・ストランドの「犬の人生」(村上春樹訳)を読んだ。一部だけれど。
訳者あとがきで引用されている彼の詩が印象に刻まれているので、その短い詩を記しておきたくなった。マーク・ストランドは1934年カナダのプリンス・エドワード島に生まれた詩人(作家)で、1990年には(合衆国桂冠詩人)の称号を受けている由。
  物事を崩さぬために(村上春樹訳)        Keeping Things Whole
                                 
野原の中で                        In a field
僕のぶんだけ                       I am the absence
野原が欠けている。                   of field.
いつだって                         This is
そうなんだ。                        always the case
どこにいても                        Wherever I am
僕はその欠けた部分。                  I am what is missing.
歩いていると                        When I walk
僕は空気を分かつのだけれど              I part the air
いつも決まって                      and always
空気がさっと動いて                    the air moves in
僕がそれまでいた空間を                to fill the spaces
塞いでいく。                        where my body’s been.
僕らはみんな動くための                 We all have reasons
理由をもっているけど                   for moving. 
僕が動くのは                       I move                      
物事を崩さぬため。                    to keep things whole.
この詩を読んだとき、このように自分の存在感を消去法?で捉えていく感覚が驚きだった。まだ子どもだった頃自分の死をそのように感じたことはあったけれども。そしてまたこのように世界から退いていく感じが私には新鮮だった。
もう一つ。
                     死者
              墓穴はより深くなっていく。
              夜ごとに死者たちはより死んでいく。
             
              楡の木の下で、落ち葉の雨の下で
              墓穴はより深くなっていく。
              風の暗黒のひだが
              大地を覆う。夜は冷たい。
              枯れ葉は石に吹き寄せられる。
              夜ごとに死者たちはより死んでいく。
              星もない暗黒は彼らを抱きしめる。
              彼らの顔は薄れていく。
              僕らは彼らを、はっきりと
              思い出せない。もう二度と。
                
                      

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