さしあたっていま一番やりたいことで、我慢していることは何か…それも実現可能なことで…と、考えてみたら、何のことはない好きな本を夢中で読みふける時間が欲しいということだった。なにしろ買ったままで、積読状態の本が何冊あることやら、というわけで、やっとお正月の2日にちょっとだけだが、その欲求不満を解消することにした。雑事をすべて放り出して、このところ横目に見ていた一冊をとりあげて読んだのだ。それがとってもおもしろくて、だからこそ読みふけることができたともいえるのだが。
梨木香歩著「沼地のある森を抜けて」がその本だ。どう説明したらいいか困るのだが、ぬかどこというどこにもある身近な素材から、ファンタジックでSF的な手法を駆使して、植物と動物のあわいにある粘菌や麹菌などの生殖形態に光をあてつつ、新しい生命様式への地平を探っていくこの作家の思想を肌身に感じつつ、一気に読んでしまった。原初の宇宙にただ一個浮かぶ細胞の見る切ない夢、そのすさまじい孤独に発する「自分の遺伝子を残したい」という人間の、特に男の欲求…などという詩的なイメージがあらわれてきたりする。ちょっと薄気味悪いところもあるが、この作家のいままで読んだ作品の中で私にとっては一番力作かつ問題作だった。一読をお薦めしたい作品だ。
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